Kyushu University SENO Laboratory

研究内容

これまでの研究の概要

Vection is an illusory self-motion when a wide field of visual motion is presented with a static subject. From the initial vection studies (Brandt et al.; 1973), many attributes of the stimulus were found to be effective or ineffective in inducing vection (e.g. Ito & Shibata, 2005; Nakamura, 2006, Palmisano et al., 2000, 2003).

Takeharu Seno is one of the top runners in the scientific world of this vection. TS concentrated on vection for more than 10 years form the start of my career. TS investigated various aspects of vection. TS’s attempts were very original and new in research of self-motion perception. I believe, TS brought more than 10 or 20 years progress in research of self-motion perception.

視野を一様な運動刺激が占める場合に、実際には静止しているにも関わらず、自己身体に錯覚的移動感覚が生じる現象をベクションと呼ぶ。私はこれまで、ベクションの研究に専念してきた。ベクション研究はBrandt et al. (1973)にはじまり、以降効率的なベクション駆動の刺激における条件(奥行き順序、面積、ジターの付与など)が調べられてきた。私は、効率的なベクション駆動のための刺激特性、ベクションの基礎的な時間特性について明らかにすると同時に、包括的で研究横断的なベクション理解のための仮説の提唱を行った。生理学及び脳科学的な知見の提供と並列して、心理学的なベクション研究も行った。さらに近年ではベクションをツールとして用いることで、人間の認知特性(時間感覚、数覚、記憶など)についても明らかにして来た。さらに、発達研究、マルチモーダル研究などへの領域拡張を、ベクションを軸にして行った。

具体的には、以下の5点が大きな成果と言える。

  1. 脳における皮質下の部位がベクションに関連していることを明らかにした

    皮質下の細胞群(Nucleus of the Optic Tract)の特殊な反応特性に相関する形で、ベクションの強度が変動する事を示した。また、皮質下のマグノ系細胞層を抑制する赤色の刺激を用いるとベクションが抑制されることから、皮質下の細胞層がベクションに寄与していることも合わせて明らかにした。このことによって、ベクションにおける収束刺激の優位性という長年の謎の原因が解明出来た。
  2. ベクションの基礎実験

    効率的なベクション駆動についての知見、ベクションの基礎的な時間特性についても明らかにした。例えば、運動刺激に順応した後に静止刺激を提示すると、ベクションは数秒にわたって残存する。我々はこの現象をベクション残効と名付け、紹介した。さらに、知覚的に図になる領域よりも地になる領域がベクションを効率的に駆動するという仮説を見いだし、実験で検証に成功した。他、静止刺激の付与によるベクションの促進や、照明光源の安定性がベクションに及ぼす影響なども明らかにした。
  3. ベクションをツールとして用いた認知研究

    上昇ベクション生起時に再生される記憶の感情価がポジティブなものになることを明らかにした。加えて、ポジティブなムードを音声刺激で誘導すると、誘導された被験者の上昇ベクションの強度が増大するという逆向きの現象についての実験も成功させた。また、数覚についても知見を提供している。ベクションを生起させた際に、被験者に自由に数字を生成させた。すると、前向きベクション生起時には小さい数字が生成され、後ろ向きベクション生起時には大きい数字が生成された。これは、我々の数字の内的表象(メンタルナンバーライン)が、奥行き次元においては、手前から奥に向かって数字が大きくなるように表象されていることを意味する。さらに、被験者の性格とベクション強度の関係について、質問紙を用いた性格調査の結果とベクションの計測値とを比較する実験を行った。その結果、自己愛の程度が強い被験者ほど、ベクション強度が弱いことが明らかになった。
  4. ベクションとマルチモーダル

    ベクション生起時に、トレッドミル上での歩行行動や、顔に扇風機の風を当てる、移動情報に合致した音を聞かせる、というように、多感覚な自己移動情報の加算を行った。その結果、それらの多感覚刺激が、視覚刺激と対応が取れている時に、ベクションが促進されることがわかった。
  5. ベクションと発達研究

    ベクションの発達過程について、新潟大学の白井述先生と伊村知子先生と共に、乳児、幼児から高校生まで3年区切りの年齢幅で記録を集積している。その結果、子供ではベクションが強くなることが明らかになった。

 これらの成果によって、ベクションの基礎研究に大きな進展がもたらされ、自己移動感覚についての理解が深まった。また、基礎研究にとどまらず、認知研究、発達研究、多感覚研究についても大きな貢献を行ってきたと言える。ベクションを軸にし、様々な分野へ領域拡張してい私の姿勢は、視覚研究の幅を広げ、多くの視覚研究者に可能性を提供した。さらに、バーチャルリアリティ(VR)研究に対して、有益な知見を提供してきたと言える。VRにおいて重要なコンテンツであるベクションのためのノウハウの蓄積に貢献して来た。